山下 誠司

Seiji Yamashita 株式会社アースホールディングス 取締役
株式会社サンクチュアリ 代表取締役
English
山下 誠司

「何かのせい、誰かのせい、過去のせい」
を捨てたときから、
人生は変わりはじめる

子どものころから「カッコイイか」「カッコ悪いか」で物事を決めてきた青年は、その後、美容の世界へと進み、自らの「カッコ良さ」を体現している。「カッコイイ」と思えることなら、「本気」になれる。そう信じる気鋭の経営者が、今、「本気」になって取り組んでいること。それは、美容業界の生産性を上げるしくみづくりである。

Profile

山下 誠司 株式会社アースホールディングス 取締役
株式会社サンクチュアリ 代表取締役

1976年生まれ、静岡県出身。高校卒業後に上京し、19歳で都内某美容室に入社。24歳のとき、美容室「EARTH(アース)」に移籍。現在は、アースホールディングス取締役(240店舗/スタッフ3000名/年商180億円)。うち70店舗をフランチャイズ展開する「株式会社サンクチュアリ」代表取締役も兼任。発売4ヵ月半で8万部突破の『年収1億円になる人の習慣』(ダイヤモンド社)は、『林先生が驚く初耳学! 』(TBS系列)でも紹介され、話題となる。2018年10月には、幕張メッセにて開催された「1万人講演会」に登壇。
山下誠司 オフィシャルウェブサイト

子どものころに芽生えた「経営者」への憧れ

私の幼少期の夢は、スーパーマンのような「ヒーロー」になることでした。なぜなら、「カッコイイ」からです。
私が子どものころ、銀行員だった父親のもとには、たくさんの「経営者」が訪ねてきました。幼い私に、話の内容は理解できません。それでも、10円のおこづかいで喜んでいた私には想像できない「金額」が聞こえてきて、「経営者は、たくさんお金を持っているんだ!」と興奮したことを覚えています。
今の子どもたちにとって、お金持ちは、それほどカッコイイ存在ではないのかもしれません。ある調査によると、「お金持ちはカッコイイ」と答えた子ども(小学生〜高校生)は、2割足らずだったそうです(参照:金融広報中央委員会「第3回 子どものくらしとお金に関する調査」)。ですが、当時の私にとっては、まぎれもなく「お金持ち=カッコイイ人」でした。

「お金持ちになるには、経営者になればいい。では、どうすれば経営者になれるのか……?」。子どもなりに出した結論が、「髪を切る人」になることでした。理由は単純で、実家(静岡県)の近所にあった理髪店のお兄さんが、見た目も、仕事をしている姿も、とてもカッコ良く見えたからです。
「お店を持っているということは、このお兄さんも、きっと経営者なんだ! だったら僕も、あのお兄さんみたいになろう! そうすれば経営者の仲間入りだ」
今にして思うとずいぶん幼稚な発想ですが、このとき、心の奥底に「経営者になりたい」という夢の種火(たねび)が灯った気がします。

周囲の反対を押し切って、「異端」の道へ

「中学を卒業したら、高校には行かないで、理容師になる」。そう父に告げると、にべもなく一蹴されました。当時は、年功序列と終身雇用が当たり前で、「良い学校を出ないと、良い仕事には就けない」と言われていた時代です。厳格な父が反対するのも、無理はありません。子を思う親の気持ちに気づかず、ずいぶん反発もしましたが、「高校に行って、人間関係を学んできなさい」という父の言葉にうながされ、商業科のある地元の高校に進学しました。

高校時代の私の夢は、「喧嘩で全国制覇すること」です(笑)。愛読書は、『ビー・バップ・ハイスクール』(きうちかずひろ作の不良漫画)。「不良=カッコイイ人」「不良=ヒーロー」だと思ってワルぶったりもしましたが、高校の先生に、「戦国時代でもあるまいし、喧嘩が強いからといって、ヒーローにはなれない」とたしなめられて、たしかにその通りだな、と(笑)。

私が通っていた高校は、女子生徒のほうが圧倒的に多く、男子生徒は1クラス(40人)に、平均5人程度です。いつも女性に囲まれていましたから、「男性を相手にするより、女性とコミュニケーションを取るほうが向いている」と思うようになって、「理容」ではなく、「美容」の世界を志すことにしたんです(※編集部注)。
今でこそ男性美容師は増えていますが、当時は「女性の仕事」だと思われていて、親戚一同から、「あの子はヘンだ。あの子は異端児だ」と色眼鏡で見られたりもしました。

高校卒業後は、美容専門学校に入学。親の反対を押し切って上京したので、仕送りは期待できません。学費も、生活費も、すべて自分で稼がなければいけない。「時給がいい」という理由で、麻雀店、パチンコ店、夜の仕事なども経験しましたが、ギャンブルの勝敗に一喜一憂する人たちをはた目に見て、「お金持ちにもカッコ悪い人がいる」ことを知りました。
私が今、ギャンブルをやらないのは、「お金を持っていても、享楽的な生活をする人は、カッコ悪い」「ギャンブルでお金を儲けても、心は満たされない」と思っているからです。

うまくいかないのは、誰のせいでもなく、自分のせい

美容専門学校を出たての当時、私は、都内の某美容室で働いていました。ところが、いつまでたっても実力を認めてもらえない。「ここにいても芽が出ない。ここにいてもオーナーにはなれない」と焦りを覚えた私は、24歳のとき、別の美容室に移ることを決めました。

転職活動中の私に、いち早く連絡をくれたのが、「EARTH(アース)」です。「今すぐ面接にこれる?」と電話があって急いで駆けつけると、ずいぶんとチャラチャラした人があらわれ、私の話をひと通り聞いたあと、「はい、合格ね」。
そのチャラ男が「EARTH」の社長、國分利治(こくぶんとしはる)であることを知ったのは、しばらくたってからです。
國分がチャラチャラしているのは、「仕事をしないで遊んでいるように見えても、じつはきちんと仕事をしている」というギャップが、美容師としての「売り」になると考えているからです。國分は、「美容室の経営者」という役を演じています。フェラーリを所有しているのも、「美容室の経営者が乗っていそうな車」だからであって、実際にはほとんど乗っていません。

國分に出会う前の私は、「性悪説(せいあくせつ)」で生きてきました。うまくいかないのは、すべて他人のせい、環境のせい、条件のせい。悪いのは親、職場であって、自分に非はない。美容師になることを反対されたのも、前職時代に実力が認められなかったのも、自分以外の人間が悪意を向けているからだと考えていました。
でもそれは間違いで、うまくいかなかった原因は、誰かのせいではなく、すべて「自分の未熟さ」にあることを國分が教えてくれました。國分は、「性善説(せいぜんせつ)」の人です。人は基本的に「善」であると考えていて、人の短所よりも長所に目を向けます。誰に対しても公平で、愚痴や不満は言わない。今ある自分をつくってくれた周りへの感謝を忘れません。

私が今、親にも、学校の先生にも、前職の社長にも感謝できるようになったのは、國分との出会いによって、私が持っていた「恨み、憎しみ、怒り」という「負のパワー」が、人を肯定する「正のパワー」に変換されたからだと思います。あのとき反対されたことも、あのとき否定されたことも、思い通りにいかなかったことも、すべてが自分の糧になっているのです。

30代は武器を磨く。40代は人脈を磨く

30代は、技術、知識、経験を蓄える時期、つまり「自分の武器」を磨く10年間だった気がします。今の私はその武器を使って、信じた道を切り拓いている途中です。
40代は、私の中で、「仕事や人脈を横に広げる10年間」だと位置付けています。20代、30代は、ひとつの物事にとことんこだわって、圧倒的に集中して、徹底的に執着するほうが結果は出やすい。けれど、40代に入ったら、自分の可能性を横に広げていくことも大事だと思います。
人が成長するには、本人の努力、研鑽、鍛錬が必要ですが、ひとりでできることには限界がある。國分が「ビジネスの7割は人脈」と言っているように、人脈を磨いて、質の高いつながりを持つことがこれからの私のテーマです。私にはない能力や感性を持つ人たちと、密度の濃い関係を築いていきたいですね。

美容業界の生産性を上げる「2つ」の方法

今の私が見据えているのは、美容師の職場環境を変えることです。美容業界は、離職率が高いと言われています。離職の原因の多くは、「美容師という仕事に不満があるから」ではなく、労働環境に起因しています。
美容業界のいちばんの課題は、生産性が低いことです。美容室の売上は「客数×客単価」で決まります。平均客単価は5,000円、平均滞在時間は2時間ですから、8時間勤務で計算すると、1日2万円の売上になります。月に25日出勤したとすれば、ひとり当たりの生産性(売上)は、「月50万円」です。「月50万円」の壁を超えて生産性を上げない限り、収益構造を変えることも、美容師の待遇を変えることもできません。
では、どうすれば生産性を上げることができるのでしょうか。私は、次の「2つの方法」しかないと考えています。
ひとつは、「店販の比率」を上げること(店販=シャンプーなどの物販)。そしてもうひとつは、「ヘルスケア」(予防医学)の領域に美容の知見を展開していくことです。これからは、「髪を切る」という美容師の仕事を「横に広げていく」ことも必要でしょう。

医者が命を預かり、弁護士が法律を預かるように、私たち美容師も、お客様から預かっているものがあります。それは、お客様の「人生」です。
髪を切ると、心が軽くなる。ヘアスタイルを変えると、表情も変わる。髪に潤いを与えると、気持ちまで瑞々しくなる……。新しい人生は、新しいヘアスタイルからはじまります。
ヘアスタイルを変えたことで、恋愛やキャリアをつかんだ人を私はたくさん見てきました。美容師は、人の人生を輝かせる素晴らしい仕事です。それなのに、多くの美容師が「離職」という選択をしているのが現状です。「美容師」という仕事に憧れを抱く人たちが、離職をしなくても済む職場環境を整えることが、これからの私の責務だと思います。

「水のパワー」を持つスーパーヒーローになりたい

私は今でも、「ヒーローになりたい」と思っています。そして、スーパーマンが怪力と、スピードと、飛行能力、透視能力といったスーパーパワーを持っているように、私もパワーがほしい。
私が身に付けたいのは、「水」のようなパワーです。中国春秋時代の哲学者、老子は、
「上善(じょうぜん)は水の若(ごと)し。水は善(よ)く万物を利して争わず、衆人の悪(にく)む所に処(お)る、故に道に幾(ちか)し」
という一節を残しました。老子は、「上善(もっとも理想的な生き方)とは、水のようなもの」だと述べています。水は、丸い器に入れると丸い形になり、四角い器に入れると四角になり、器の形を選びません。水には、相手に合わせて自分の姿を変える柔軟性があります。そして、常に、低いところに流れ、低いところに身を置く謙虚さも持っています。大地に恵みを与え作物を育てたり、人々の喉を潤すおだやかな「癒し」の力を持つ一方で、ときに激しい流れとなって、岩をも砕く破壊力を持っている。
柔軟性と、謙虚さと、癒しと、破壊力を兼ね備えた「水」のパワーを身に付けることができたら、スーパーヒーローになれる。私はそう思っています。

※編集部注
理容とは、頭髪の刈込、顔そり等の方法により容姿を整えること。
美容とは、パーマネントウェーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすること。
(参照:厚生労働省 理容師法の概要/美容師法の概要)

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山下 誠司

私は常々、「本気で生きている者には、本気の仲間たちが集まる」と考えています。私も、そして杉山さんも、20代に汗を流し、30代に知恵を絞って、本気で、無我夢中で仕事と向き合ってきたからこそ、40代の今、こうして出会えたのだと思います。
ニューヨークで育った杉山大輔さんは、静岡県で育った私とは、センスも、感性も、スピード感もまるで違いました。頭は氷のように冷静で、心は炎のように熱い。リズム感がよくて、決断が速い、仕事が速い、次の一手が速い……。インタビュー当日も、嵐のように現れて、嵐のように去っていった印象です(笑)。
杉山さんがあらゆる角度から話を引き出してくださったので、私さえ気がつかなかった「私の哲学」を言語化できたと思います。
とても楽しいインタビューでした。ありがとうございます。

株式会社アースホールディングス 取締役
株式会社サンクチュアリ 代表取締役
山下 誠司
Interview and Editor : Daisuke Sugiyama | Text: Yutaka Fujiyoshi | Photography: Akane Inagaki
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